教壇に立ち熱弁をふるう【11.12.22】

物づくりの楽しさを生徒に

菅貴志さん
 「皆さん注目してください。このポンチを使ってクギを綺麗に打ち付けましょう。さぁ、やってみよう」と、声高々に優しい表情で話すのは菅貴志さん(26歳・建築大工・中川熱田支部)です。

 建築大工をこの道10年誇る菅貴志さんは、キャリア・マイスターとして名古屋市立若水中学校(名古屋市千種区)で、技術家庭科の指導にあたるため教壇に立っています。

 建築大工の経験を活かし、1人でも多くの生徒に物づくりの楽しさ・喜び・制作過程を伝えたいと日々熱弁をふるっています。

 そんな菅先生にスポットを当て、授業の様子など学校生活についてお伺いしました。

貴重な経験をする

学生に囲まれ、マルチスタンド作りの指導をする菅先生(中)
 高校生活が始まり3ヵ月が過ぎた頃、どうしても高校生活になじめず、悩んだあげく中退しました。

 その後、父が建築大工ということもあり大工にならないかと誘いもありましたが、社会経験を積むため、まず飲食店に勤めることになりました。

 お店では、今までに経験したことのない知識を教わることになり、店員としての言葉遣い・礼儀作法・接客態度、また働く喜びを優しい店主と婦人から学びました。

父と一緒に建築大工を

3年生の生徒を前に講演する菅先生
 次第に、いつの日か父と一緒に大工がしたいとの思いが強くなり、16歳の秋、気持ちを新たに建築大工を志しました。

 父を親方として、日々技術を習得するため精進していましたが、時には元請業者から「中卒のお前に何ができるのか」と、学歴だけで判断され辛い時もありました。その辛さをバネに「いつか腕をあげ立派な職人になって見返してやる」と、強い決意をしました。

 周りから腕の良い職人と評判の父は、昔ながらの職人気質で頑固一徹の職人、無口で礼儀作法には特に厳しい親方です。以前、建築現場の後片付けや掃除が不十分で、注意されたことがあります。

 親方から、「この中途半端な状況をお施主さんが見たらどう思う。明日、応援に来てくれる職人さんが気持ちよく働けるか。掃除が満足にできない奴は家を建てる資格はない。皆が気持ちよく過ごすために、道具の後片付けや掃除も立派な仕事の一つ。毎日、感謝の気持ちを持ち、全ての仕事に手を抜かずにやることが大切だ」と、職人としての心構えを教えられました。

 菅さんは、これを機に、更に責任ある仕事を任されるようになり、大工職人として腕を磨きました。

マイスターになったきっかけ

 振り返ると学生時代、家族や先生、周りの人にたいへん迷惑を掛けました。

 誰からも、決してほめられる生き方ではありませんでしたが、学生の皆さんに後悔するような学生生活を送ってもらいたくない。

 また、建築大工として10年間身に付けた技術を活かし、物づくりの素晴らしさを1人でも多くの生徒に伝えていきたい、と志望しました。

 キャリア・マイスター応募総数272人の中、合格者16名の狭き門を通過しました。

熱弁をふるう「菅先生」

 9月1日から3月末までの7ヵ月間、若水中学校が赴任先として決まりました。

 始業式の日には、全校生徒345人の前でキャリア・マイスターとして「建築大工の経験を活かし、私の身に付けた技術を伝えていきたい」と、挨拶しました。

 技術家庭科を担当することになり、1年生4クラスを受け持ち、課題として「マルチスタンド作り」を行ないました。

 木工室では、「菅先生」がお手本として材料となる角材をノコギリで鮮やかに切り、また金づちも素早く打ち付けていました。その様子を見た生徒は華麗な手さばきに釘づけでした。

 教壇に立った最初の頃は、理想と現実の違いで考え込むこともありました。

 その時、校長先生から「菅先生は、プロの教師ではないから、上手く話そうとしなくていいんだよ。ありのままの菅貴志で、実技を中心に指導してもらえれば」と、助言されたことにより、気持ちが楽になりました。

 日に日に、生徒との距離感もなくなり、お兄ちゃんのような菅先生をしたって話しかける生徒で笑い声の耐えない明るい授業が行われていました。

感謝の気持ちを持って

 「あと3ヵ月。全力で頑張っていきます。周りの方々に感謝の気持ちを持って、これからも技術指導に励んでいきます」と、力強く語っていました。

校長からエール 菅先生に大きな期待を

校長 荒川毅さん
 「たいへん真面目な菅先生は、授業がない日も学校に来て次の授業の準備をするほど熱心な先生です。また、部活動ではバレーボール部の指導補助まで受け持ってくれています。生徒からの信頼も授業や講演会を通じ次第に厚くなり、楽しい雰囲気で授業をしています。キャリア・マイスターを受け入れたのは、技術家庭科の教員が少なかったことから制度を利用しました。赴任前に、私が面接試験に立ち合った際に、彼の物づくりに対する熱意に心を打たれました。彼の年齢と生徒の年齢が近いこともあり、お兄さん的な存在になればと思い、必ず彼なら生徒にとってプラスになることを期待し、今回の配置につながっています。今後も彼が経験してきたことを彼なりに伝えていってほしいと期待しています」と、荒川校長は熱いエールを送りました。

キャリア・マイスター

 名古屋市教育委員会は、学校外部の経験豊かな人材がもつ多様な社会経験・資格や特技を学校現場に取り入れることにより、学校の活性化を図るとともに、名古屋市立小・中学校の児童・生徒の豊かな人間性と社会性の育成を支援するために学校に配置する人材のことです。

 採用された20歳から60歳代のマイスター16人の中には、建築大工・管理栄養士・ウェブサイトデザイナー・元キャビンアテンダント・気象予報士などが、週3日学校に常駐して、それぞれの経験や職歴を活かし、授業を補助し活躍しています。

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